12月24日。 フランシアから贈られた絵画「バラの涙」が式典会場の美術館に輸送される途中、強奪請負人ミストラルに奪われた。 だが、亮介や墨東署交通課の面々の活躍で絵は無事に戻り、ミストラルも逮捕されたのだった。
「だだいま〜」
「あっ、お兄ちゃん。 お帰りなさい。 ご飯温めるからちょっと待っててね。」
亮介が疲れた表情で帰ってきた。 妹のちはるが彼を迎える。 ミストラルの一件で亮介は1日中墨東署管内を走り回っていて、任務を終えてマンションに戻ってきたのは日付が変わる直前だった。
自分の部屋で部屋着に着替えながら、亮介はキッチンで夕食を温めているちはるに話しかけた。
「シェリルは?」
「部屋でぐっすり眠ってる。 今日の式典があの騒ぎで明日に延期になっちゃったでしょ。 だから早く寝かせたの。」
「そうか…」
「ご飯、用意できたよ〜!」
「あぁ、今行く。」
着替えを終えた亮介は遅い夕食をとるためにダイニングへ行った。
黙々とご飯を食べる亮介の姿を見つめるちはる。 意を決してちはるは亮介に話しかけた。
「ねぇ、お兄ちゃん?」
「ん?」
ちはるが声をかけてきたので、食事中の亮介のハシが止まった。
「あの時、私があの道を通りかからなかったら、お兄ちゃん達はミストラルって人をすぐに捕まえられたんだよね。 私のせいでお兄ちゃん達に迷惑かけちゃった…」
この日の夕方、ちはるは式典に出席するシェリルの姿を見届けるために美術館へ向かっていたのだが、途中、バラの涙を強奪したミストラルを追い詰めた亮介達と出くわしてしまい、彼女はミストラルに人質にされてしまった。 ちはるはあの道を通ってしまった為に亮介の仕事を邪魔してしまったと自分を責めていたのだった。
「ちはる…」
フッと一息つくと、亮介はちはるの肩をポンとたたいて言った。
「お前のせいなんかじゃないさ。 あの時、ミストラルにばかり気が向いていて、周囲の状況に考えが回らなかったオレの責任だ。 危険な目に遭わせて本当にすまなかった。」
「お兄ちゃん…」
亮介の方もミストラルにばかり気を取られて周囲に目が届か無かった為に妹を危険な目に遭わせた事を悔やんでいたのだ。
「でもね、お兄ちゃんが言うほど怖くなかったよ。 だって私、お兄ちゃん達が絶対助けに来てくれるって信じてたもん。 屋上に上がってきたときのお兄ちゃん、本当にカッコ良かった…」
ニコッと笑みを浮かべながらちはるは亮介に言った。
「ちはる、実は…」
神妙な顔つきで亮介はちはるに話しかけた。
「何、お兄ちゃん?」
「あの時必死になってミストラルを追ったのはお前のことじゃなくてバラの涙を奪われたら国際問題になるし、始末書1枚では済まなくなるって考えてたって言ったら怒る?」
「えっ? お兄ちゃんは私よりも絵のほうが大事だったっていうこと? あ〜あ、やっぱりそういうオチになると思った。 お兄ちゃんのことさっき、カッコ良かったって言ったけど、撤回させてもらうもんね〜!」
ちはるは亮介の発言にムッとして頬をふくらませた。
「って今のは冗談だよ。 お前はこの世でたった1人のオレの大事な妹なんだ。 絵よりもお前の方が大事に決まってる。」
ムッとしているちはるに対して亮介は笑いながら言った。 亮介は元々ちはるに対しては素直じゃない部分があるので、素直に「お前が大事!」と言えなかったのだ。
「本当に?」
疑いの眼差しで亮介を見ながらちはるは聞いた。 さっき亮介に冗談を言われたばかりなので疑うのも当然だった。
「本当さ。」
亮介の表情は真面目だった。
「さて、もう夜遅いからお前はもう寝ろよ。 食器は片付けておくから。」
亮介は食器を片付け始めた。 テーブルの上に残っている食器は自分のだけ、それをちはるにわざわざ片付けさせるのは悪いと思ったのだ。
「いいよ、私が片付けるから。 お兄ちゃんの方こそ明日も式典の警備で朝早いでしょ?」
ちはるも明日式典の警備で忙しいであろう兄を気遣って自分が食器を片付けようとした。
「片付ける時間ぐらい何でも無いって…」
「私がやるっていってるでしょ!」
「お前も意地っ張りだなぁ。 オレが片付けるって言ってるんだからお前は言うことを聞いていればいいんだ!」
「お兄ちゃんの方こそ〜!」
「むーっ!!」
亮介とちはるはお互い意地になって言い合いを始めてしまった。
「ふわーっ… 亮介もちはるも何やってるの? うるさくて眠れないよう。」
シェリルが目をこすりながらやって来た。 どうも2人の言い合いで目が覚めてしまったようだ。
「シェリル?」
「シェリル、起こしちゃってごめんなさいね。 静かにするから…。」
「うん。 じゃ、おやすみぃ〜。」
シェリルは部屋へ戻っていった。 シェリルの突然の登場で2人の言い合いはストップしたのだった。
「このまま言い合うとまたシェリルを起こしかねないし… じゃ、お言葉に甘えて先に風呂に入って休ませてもらうな。」
亮介はちはるに告げると風呂場の方へ歩いて行った。
「うん、おやすみなさーい。」
ちはるはテーブルにあった食器をささっと片付けて洗い始めた。
食器を洗いながら、ちはるは小さな声でつぶやいた。
「助けに来てくれた時、カッコ良かったのは本当だよ。 お兄ちゃん、本当にありがとう…」
「ありがとう…」
この一言は偽りも何も無い純粋な妹から兄への感謝の気持ちだった…