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 「新たなる一歩」 


 強奪請負人ミストラルに奪われたフランシア国宝「バラの涙」を取り戻し、ミストラルも逮捕した亮介達。 ミストラルの身柄も本庁へ引渡し、彼らは美幸の運転するトゥデイで墨東署への帰路に就いた。

 「有栖川君、本庁からの辞令を読んだ後、署の方に戻りましょうって言ったわよね。 それってこれからも墨東署にいるということなの?」
 トゥデイのハンドルを握りながら美幸が亮介に話しかけた。 
 「そうそう、私もそれが気になってたんだ。 ミストラルの一件も解決したことだし、有栖川君は本庁特捜班に戻るんじゃないの? 一体、辞令には何と書かれてたの?」 
 たてづづけに夏実が同じ質問をしてくる。 亮介は墨東署から本庁へのハッキング及び一連のミストラル事件で本庁から派遣された捜査官。 ミストラルを逮捕し事件も解決した今、彼は本来の所属部署である本庁特捜班に戻ることになる。 なのに「署の方に戻りましょう」といった彼の発言を2人がおかしいと思うのは当然のことだった。
 「実は…」
 「何?何?」
 亮介の答えが気になってしょうがない夏実は彼の顔を覗きこむ。
 
 「本庁の指示を待たずに独断で人質救助を行ったということで、僕、本庁から左遷されることになったんです。」
 「さ、左遷?」
 彼の衝撃的な発言に美幸は言葉が続かなかった。
 「そんな…。 何で有栖川君が左遷されなくちゃいけないの? だってあの時は指示をのんびりと待っているような状況じゃなかったのに!」
 あの状況下では本庁の指示を待っている余裕など全く無かった。 だから人質のちはるを救けに向かったのに… その為に亮介が本庁から左遷されることには到底納得がいかない。  夏実は声を荒げた。
 が、亮介の言葉は続いた。
「いくら結果的に事件が解決したとはいえ、本庁の指示を待たずに独断で行動したことは明らかな規律違反です、左遷されても仕方ありません。 でも、指示を待っている間、人質となったちはるが無事だという保証はどこにもなかった。 だから僕はミストラルを追ったんです。 あの時自分がとった行動は間違いだとは思わないし、後悔もしていません。」
 「有栖川君…」
 独断で人質救助をすれば規律違反で処分を受けるのは明らか。 でも、指示を待つ間、ちはるに万が一何かあったら自分の地位を保てたとしても一生悔やみつづけることになる。 だから厳しい処分が待っていようとも後悔だけはしたくなかったという亮介の信念に対して美幸は凄いと思うのだった。
 夏実は苦笑いしながら、
「私、そういう信念を持てる有栖川君が羨ましいなぁ… 私が同じ立場だったら左遷と聞いた時点で怒り狂って暴れてるかも知れないもの。」と言った。 彼女も亮介の信念に対して尊敬の念を抱いていた。
 「ハハッ、辻本さんらしいですね。」
 「暴れてるかもしれない」という彼女の発言に亮介が笑った。
 「あーっ、言ったな〜!」
 「辻本さん、やめてくださいよ〜!」
 夏実に頭をコツンとたたかれて亮介は両手で頭を抱えている。 
 「で、有栖川君の新たな赴任先ってどこなの?」
 夏実と亮介のやり取りを見て笑っていた美幸が彼に話しかける。
 彼女の質問に対する亮介の答えは簡潔なものだった。、
 
 「墨東署捜査一課です。」
 「へ? 墨東署捜査一課ぁ? ってことは徳野さんと同じ部署じゃない!。」
 亮介の左遷先は何と夏実が憧れる徳野がいる捜査一課。 彼女は驚きの声を上げた。
 「そうか、だから署の方に戻りましょうって言った訳なのね。 やっと意味が分かったわ。」
 亮介の左遷先は今まで派遣されていた交通課から変わるが同じ墨東署の捜査一課。 だから彼は「署の方に戻りましょう」と言った。 美幸は彼の発言に納得していた。
 「という訳で、小早川さん、辻本さん、これからもお世話になりますのでよろしくお願いします」
 亮介は新たな職場の先輩である2人に向かってペコリと頭を下げた。
 「こちらこそ!」
 美幸が答える。
 「一から鍛えなおしてやるからね〜!」
 夏実は脅かし混じりに言ってみせた。
 「お手柔らかにお願いします。」
 亮介は苦笑した。

 そうこうするうちに美幸の運転するトゥデイは墨東署に到着した。
「ふーっ、やっと署に戻ってこれた〜!。 何だか今日一日の疲れがドッと出てきちゃったよ…」
トゥデイから降りると夏実は腕を伸ばしながら疲れた表情で言った。
 「今日は本当にいろんなことがあったもんね…」
 絵画の警備に爆弾探し、人質救助にミストラル追跡と1日でこれだけのことをこなしたのだからいくら人並みはずれた体力の持ち主である夏実でも疲れるかもしれない。 美幸はそう思った。
 
 「おーっ、辻本達じゃないか。 今日は大活躍だったな。」
 玄関にいた徳野が夏実に声をかける。 彼は亮介達よりも一足先に墨東署へ戻ってきていたのだ。
 「あ、徳野さん! ただ今戻りました〜!」
 夏実は笑顔で答えた。 
 「全く… 一課を差し置いてミストラルの一件を解決しちまうとはな。 でも、一課があれだけ手を焼いていた事件を解決させたんだ。 お前達の活躍には本当に驚かされるよ。」
 徳野は皮肉交じりに言った。 ミストラル事件は捜査一課の管轄。 それを交通課の人間である夏実達に解決されたのは少々悔しかったが、一課が苦戦した事件を解決させた夏実達の実力を彼は評価していた。
「ははっ、何だか照れちゃうなぁ…」
 夏実は照れて頭をポリポリとかいていた。
 
 「あっ、そうだ有栖川。」
 徳野は亮介に声をかけた。
 「はい?」
 「お前も今までご苦労だったな。 本庁に帰っても頑張れよ!」
 「徳野さん、それが…」
 亮介は神妙な顔つきで徳野に自分が本庁から墨東署捜査一課へ左遷されることを話した。
 「ふむ、そういうことか… 有栖川、本庁から所轄ということはお前、都落ちになるんだぞ。」
 「自分には今回の左遷が都落ちだとかそういう考えはありません。 あの行動が間違ったことだとは思わないし、警察官はどこにいても警察官なのですから、これからも職務に専念するだけです」
 「フッ、お前というヤツは…」
 本庁特捜班に所属するエリートであった亮介。 だが、本庁から一所轄へ左遷となれば、普通ショックで落ちこむはずなのに、そういう素振りは一切見せず、逆に「警察官はどこにいても警察官なのだから」と言ってのけてしまう彼に徳野は「こんなふうに言ってのけるなんて大したもんだ」と思うのだった。
 亮介の予想外の発言に驚いた徳野。 だが、一息つくと先ほどのような温和な表情から一変、現場にいる時のような厳しい表情で彼に言った。
 「有栖川、所轄には本庁とは違う厳しさがある。 それを教えてやるから覚悟しておけよ!」
 亮介もキリッとした表情で
 「はい!」
 と、答えた。
 
 「有栖川君、徳野さんにしごかれるぞ…」
 亮介と徳野のやり取りを見ていた夏実が言う。
 「心配する必要は無いわよ夏実。 彼なら大丈夫。」
 亮介が徳野にしごかれるんじゃないかと心配する夏実に美幸が言った。 
 「そうだね、そんなやわな人間じゃないもんね、彼。」
 この10日間、亮介と一緒に仕事したのを思い出し、彼はそう簡単にへこたれる人間ではない。 美幸が言うのももっともだなと夏実は思った。

 そして数日後…
 「先日まで交通課に派遣されていたので顔を知っているとは思うが、本庁特捜班から一課に転属となった有栖川亮介警部補だ。 みんな、よろしく頼むぞ!」
 「有栖川亮介です。 皆さん、よろしくお願いします!」
 墨東署捜査一課。 そこには徳野によって一課のメンバーに紹介される亮介の姿があった。
 
 「ここからオレの警察官人生第2幕が始まるんだ…」
 亮介は心の中でそう思っていた。




 〜End〜