2005年 冬
- 1月7日(金)曇
化学調味料のこと
-
(昨日二日酔いと風邪のダブルパンチを喰らって、今日は仕事を持ち帰って家で半休養中。合間にちょっと雑文など。弱っているので文体も柔らかく・・・内容は別として)
実家が米穀商だったので「味の素」ではなくて別の商標のもの※でしたが、とにかく化学調味料はずっと使っていました。
結婚して(するまで知りませんでした。長い付き合いだったのだけれども)、連れ合いが化学調味料嫌いだと言う事を知りました。実家でも、料理に化学調味料が少しでも入っていると一口目で感知して一切口をつけなかったとか(そのためか、料理のウデは玄人裸足で、こちらは色々な意味でオイシイ思いをさせてもらっていますが)。ついでに、「料理は手間」が信条で、いわゆる「袋の味」とか冷凍食品が大嫌い(ただし、イカリングフライだけは例外で、大好物。あの丸いモノの前では理性が飛ぶようです)。当惑しながらも、昆布と鰹節でダシを取り、袋物や「○○の素」を使わない生活が始まりました。
※米穀商で扱う商品には「プラッシー」などT食品さんのものが多い。
するうち、こちらの味覚も徐々に変わってきて、「混ざり物」の味が「なんとなくイヤな味」として感じられるようになってきました。調味料にも気を使うようになり、原材料欄に目が行くようになりました。前に書きましたが、例えば醤油の材料は「大豆、小麦、食塩」。でもどこかで工程を「簡略化」するとか「コスト低減」しようとすれば、その代償として作り物の味を使わざるを得ないのです。残念ながら、乱暴に言ってしまえば「混ぜ物」の量と価格は反比例します。真っ当なものを作るにはそれなりのコストがかかるわけで、消費する側がただただ安値だけを追求するならば、作る側としてもそのような奇麗事は言っていられないというのもまた悲しい事実ではあります。
ただ、昨今は「化学調味料はもうイイや」という風潮が少しずつながら出てきているのが、スーパーの棚からも感じられます。何よりありがたいのが、ブイヨンやコンソメの化学調味料フリーのもの。こればっかりはそうそう自宅で作るというわけにもいかないので・・・と思って今原材料欄をよ〜く見返したら、なんか、「蛋白加水分解物」って、あなた、それ、回りくどくなく言えば「アミノ酸」でしょ!・・・やられた(と思いましたが、この表記は一般にカゼインペプトン(牛乳のタンパク質の分解物:アミノ酸が少し集まるとペプトン。たくさん集まるとタンパク質)で使われる事が多いし、「化学調味料」は発酵させて作るのが普通なので、もしかしたら「カゼイン加水分解物」のことなのかも知れません。混ぜ物であることには間違いはないのですが、用途が違うので・・・)。
・・・まぁ、今どき「うまみ調味料」に騙される人はいないでしょうが、「調味料(アミノ酸)」の代替の表記として「化学、化学って言わないでください、さとうキビを発酵させたものなんですよ!」ということで「発酵調味料」とか(まぁ、広く言えば醤油も魚醤も味噌も発酵調味料ではありますが)、いろいろ、「逃げ」の表記を工夫しておられるようで。表記を変えるのはいいのですが、それで「化学調味料は使っていません!」って、胸張って言われても。。。
ただ、「化学=悪、自然=善」という変な刷り込みはできれば勘弁していただきたい所。自然界の振るう暴力(今回のtsunami disasterとか)、自然界の作る毒物のパワーは人間の作り出すそれとは比べ物にならないほど強力なわけで、そういったことに目をつぶって、「飼いならされた”自然”」ばかりを愛でられても。天然物由来であったペニシリンは夾雑物のためにショックを起こすことが多く、バンコマイシンは当初その精製度の低さ故に「ミシシッピの泥」とまで言われたそうです(いくら「自然」が好きな人でも「泥」を注射されるのはイヤだろうと思います)が、現在では精製・合成技術の進歩により、化学的により純粋な製品になっています。何にしても極端な二元論は危険ですね。
- 化学調味料を出来る限り使わない食生活を続けていると何が起こるかと言いますと、使用量の多寡と元々の味覚の鋭敏さによって差はあります(ふつうの人でもわかるものです)が、味にさほど注意を払っていなかった人間でも、化学調味料が入っているかどうかがわかるようになり、大量に使っているものを食べるのが苦痛になり、無理に食べると舌が痺れるようになります。かくし味程度の量ならまだしも、化学調味料に頼った味付けの食べ物はどれも同じ味に感じられ、飽きてくるのは多くの方が経験しておられるのではないかと思います。
もう一つ「塩味が基調の食べ物に入っていた場合、異常に塩辛く感じられる」というのがあります。これは、駅近くのおにぎり専門店で買ったおにぎりがえらく塩辛く、そういう味付けなのかなぁ?と思ったのが最初の経験でした。便利な場所にあるのと、いかにもおいしそうにディスプレイされているのでうっかり再度購入して同じ思いをし、それから二度と近寄らなくなりましたが、特に何も思わずにおりました。ところが、とあるお宅で玉子焼きをいただいた際、あまりの塩辛さに驚いて、しかし周囲は普通に食べているので、(これは塩を入れすぎたのか?いやいや今どき玉子焼きなんぞ作れる人がそういう単純なミスをするとは思えないし、まさかイヤガラセ?いやいやそれなら最初から作らなければいいだけだし、しかし、誰も何も言わないけど、気付いてる?気付いてない?これは一体どういうこと???)と、悩みながらその場はそれで終わったのですが、それからしばらくして(すぐに気付かない所がニブいですが)、「ああ、あれは、もしかして・・・」と思い当たりました。あのおにぎりは、多分、塩化ナトリウムとグルタミン酸ナトリウムの相加作用で塩味が強く出てしまっていたのです※。化学調味料に慣れていれば旨みとして感じられたのでしょうが、化学調味料の味を「イヤな味」として引き算する舌にとっては、ただその塩味だけが残って、異常に塩味の強いおにぎりになってしまったようです。コンビニエンスストアのおにぎりも同様の理由で塩辛く感じます。玉子焼きに化学調味料を入れるとは考えにくいのですが、「頭にいい」とか言っておひたしに山と振りかけて若奥様を腐らせるお年寄りの話もあちこちで聞きますので、そういう家庭もあるのかもなぁ、と思っています。
※その後買った「味の何でも小事典(講談社ブルーバックス,2004年)」に”Na+を含むうま味調味料(グルタミン酸ナトリウム)もじつは塩味を含んでいるのですが、分子量の大きな陰イオンをもっていることに加え、使用するときの濃度が非常に低いこともあり、ふつうは気がつきません。”とありました。濃度が低ければよかったのでしょうが。。。ちなみにこの本、「日本味と匂学会」が編集していて、なかなか面白いのですが、ちょっと「うまみ調味料」を持ち上げすぎでは?と思ったらAの素さんがしっかりかんでました。そういうバイアスもあると思って読んだ方が良いようです。
戻る