神経症(ノイローゼ)

ある日突然

 ある日、胸がドキドキして苦しくなる。次第に、息も荒くなり、肺に空気が入らない感じで、頭がボーッとして、手がしびれてくる。
 今までにない体験で、死んでしまうのではないか、我慢していると気が狂ってしまうのではないか、という恐怖に襲われる。救急車で病院にいく。心電図をはじめ、色々な検査を受けても「異常ない」といわれる。
 そういわれても、あんなに苦しかったのだから、どこか悪いはずだ。またあの苦しい発作がおこるのではないか、と常に不安を感じて、車に乗れなくなる。特に渋滞の道や、高速道路が恐くなる。公共交通機関、特に新幹線にも乗れなくなり、狭い場所に入るのが恐くなる。今まで元気に動き回っていたのに、どうなってしまったんだろう。
 大丈夫です。身体が悪いわけではありません。死ぬことも気が狂うこともありません。
 この病気は、最近ではパニック障害、昔からの病名では不安神経症(不安ノイローゼ)という神経症(ノイローゼ)の一種で、治療によって元通りの元気な身体に戻ります。
 では、神経症(ノイローゼ)とはどんな病気でしょうか。

神経症(ノイローゼ)で身を守る

 人は産まれた時から死ぬまで、何がしかの不安をもって生きています。不安と無縁な人はいません。通常は、不安を様々な形で解消しながら生活していますが、耐え難い不安を長期間にわたって抱えこんでいると、神経症(ノイローゼ)という病気になることで、身を守るしかなくなります。

こんなにわかれる神経症(ノイローゼ)

 神経症(ノイローゼ)は、不安を加工して、様々な症状を出す病気なので、いくつかの病型にわかれます。その病型には、① 不安神経症(不安ノイローゼ) ② 強迫神経症(強迫ノイローゼ) ③ 心気神経症(心気ノイローゼ)④解離神経症(解離ノイローゼ) ⑤ 抑うつ神経症(抑うつノイローゼ)  ⑥ 離人神経症(離人ノイローゼ)   ⑦ 神経衰弱などがあります。それぞれが、どういう症状を呈するのか、ここでは比較的多い病型の①から③までを説明します。

 

  • ①不安神経症(不安ノイローゼ)

     神経症(ノイローゼ)の基本型です。不安を加工せず、生のまま身体の症状としてあらわれます。症状ははじめに述べたとおりで、人間が不安を感じた時に、おこす身体の変化です。
     神経症(ノイローゼ)の不安は、長い間心に貯めこんでいるため、原因はすぐにはわかりません。わからないままでいることの人が多いともいえます。わからなくてもかまいません。治れば良いのですから。むしろ原因は何だろう、とあれこれふり返って考えない方が良いようです。
     精神療法と薬物療法を組み合わせることで良くなります。
     精神療法は、病気に対して居直って、あるがままを受け容れる構えを身につけることを眼目とします。
     薬物療法は病気に対する心構えを身につけ、ゆとりを得るために、定期的に薬をのみます。不安発作がきた時に屯服薬をのむこともあります。症状が軽くなるにつれて、次第に薬を必要としなくなります。
     治療期間は人によって様々です。1回の診察で楽になる場合もあれば、何ヶ月もかかる場合もあります。良くなってからも安心を得るために長年通院することもあり得ます。いずれにせよ神経症(ノイローゼ)の中ではもっとも治り易い病気ですから、治るという確信を持って通院することが大切です。

  • ②強迫神経症(強迫ノイローゼ)

     不快なイメージや考えが、くり返し頭に浮かんで、自分でもバカバカしいと自覚するけれども、払いのけられない。不安になるので、そのイメージや考えを打ち消すために、何回も同じ行為をくり返してしまう。
     外出する時に、何回もガスの元栓や鍵がしまっているかどうか確認しないと気がすまない。そのため、外出するまでに時間がかかって仕方がない。外出しても人混みで他の人に触れると、汚れた気がしてがまんできなくなる。帰宅すると、衣服を全部脱いで洗濯せずにはいられない。水道を流しっ放しにして手を洗い続けるので、手はあれるし、水道代が高くなってしまう。
     このように例をあげ出したらきりがない程、自分でもバカバカしいと思いながらも止められないのが、強迫症状です。強いて、迫ってくるのです。常に浮かんでくる考えを強迫観念といい、くり返す行動を強迫行為といいます。他人に強迫行為を止められると、強烈な不安がおこってきます。
     強迫症状は、不安を加工しているのですから、根気の良い精神療法と薬物療法をつづけて、不安の氷山を少しずつけずっていく必要があります。治療期間は、年単位で考えた方が良いでしょう。時間はかかりますが、根気よくつづけることで、生活の幅が徐々にひろがっていって治ります。

  • ③心気神経症(心気ノイローゼ)

     胃が痛いと胃癌ではないか、と心配になる。頭が痛いと脳腫瘍ではないか、脳出血になるのではないかと心配になる。胸が痛いと心筋梗塞ではないか、と心配になる。
     このように身体の一寸した変調が、死に至る病ではないか、といつもビクビクして心配になってその都度医者にかけこむのが、心気神経症(心気ノイローゼ)です。
     医者が検査結果を示して「心配要りません」と言っても、なかなか信用できません。そこで必要なのが精神科での治療です。息の長い精神療法と薬物療法をつづけることで治ります。

信頼関係を

 以上三つの神経症(ノイローゼ)を説明しました。すでにおわかりかと思いますが、神経症(ノイローゼ)は、精神療法と薬物療法の両方を組み合わせることで治る病気です。
 治療にあたった医師と患者の信頼関係がもっとも大切です。信頼関係があって、はじめて精神療法も薬物療法も効果を発揮します。
 治ることを信じて、途中であきらめずに良くなるまで通院してください。